阪神大震災における水槽の復旧と調査について
はじめに
平成7年1月17日に京阪神・淡路地区を襲った「兵庫県南部地震」は、既に皆様がご承知のとおりマグネチュード7.2、震度階は最大の7、そして加速度は水平が0.8G、垂直は0.5Gという極めて大型の地震でした。
またこの地震は直下型であり、断層が生じたり、各地に液状化現象が起きるなどの事態も重なり、従来経験してきた地震とは比較にならない甚大な被害を残した地震でもありました。
三菱樹脂株式会社 設備機器事業部は人が生活する上で重要な『水』を供給するための設備として、受水槽や高置水槽など給水用水槽を製造・販売している関係から地震を初め各種災害に対しては常日頃から高い関心を持っております。
「兵庫県南部地震」時も、1月17日のテレビニュースの画像で「状況は極めて悪い」と判断し、直ちに現地の支店・営業所と連絡を取ると共に、同日中に事業部内に対策本部を設置、現地の復旧のための点検調査や修繕工事を行うことを任務とした『阪神大震災緊急対策チーム』を編成し派遣しました
京阪神いずれの地区もそうでありましたが、特に兵庫県南部地区での宿泊施設は絶対的に不足しており、弊社においても復旧現場から遠く離れた泉南や奈良などに対策チームの拠点を置かざるを得ず、交通事情の規制・混乱も相俟って復旧作業は遅々として進まない場合もあるなど、お客様には暫時ご辛抱をお願いすることもございました。
復旧作業にあたり御協力いただいた各方面の方々に厚くお礼申し上げます。
1.水槽被害の復旧と調査の目的
『阪神大震災緊急対策チーム』の任務は被災した水槽を可能な限り速やかに復旧し、地域の方々の生活が一日も早く通常の状態に戻れるようにすることです。
したがって、まず第一に、水槽の破損の程度及び修理や補強に必要な部材や部品を調査し、それにより速やかに修理を実施し水槽の復旧を行うこと。第二に、水槽周辺設備としての配管、架台、アンカーボルト、コンクリート基礎、鋼製高架台なども合わせ調査し、関係部署への情報提供も含めできるかぎりの処置をおこなうこと。
さらにこれらの調査結果を踏まえ、現在使用されているお客様へ水槽のより良い維持管理方法の提案をさせていただいたり、今後新たに設置されるであろう水槽がいかにあればよいかなどの提案を行っていきたいと考えています。
2.水槽被害の復旧に対する活動期間
平成7年1月17日 から 平成7年4月30日まで
3.活動対象地域
調査地域は震度階最大の7となった神戸市、兵庫県南部、淡路島と大阪府、京都府にわたる京阪神地方一帯を対象といたしました。
4.復旧および調査体制
地震発生直後のニュースや現地支店との連絡で被災規模は甚大であると判断し、直ちに工場及び全国から修繕工事の熟練者を集め、緊急の復旧および調査チームを編成し現地へ派遣いたしました。給水設備としての受水槽や高架水槽はライフラインの一環であるためその復旧は極めて緊急性の高いものであります。
以上を考慮し、チームを短期集中型にすることにより緊急対応が可能となる体制を作りました。
組織の主な役割は次の通りです。
(1)緊急材料運搬用車両の確保と緊急輸送路の確保
(2)補修用材料ストックのための臨時緊急アッセンブル基地の設営
(3)工場での臨時緊急生産・出荷体制の編成
(4)被災水槽復旧のための調査診断と工事施工
5.調査及び修繕施行実績
弊社がこれまでに京阪神地区へ納入いたしました水槽は上市以来膨大な数にのぼりますが、その中で今回調査依頼を受けた数は794台であり、そのうち更新やパネル交換などを必要としたものは232台、ボルト調整などの軽い修繕施行をおこなったものは562台となりました。
6.水槽の被害事例
(1)地震の特徴
今回の地震は内陸で起きた直下型の地震で『上下にドスンときた後、横にグラグラと揺れた』というような証言もあり、既に新聞やテレビ等で報じられた通り被害は、狭くて長い直線的な範囲内で顕著であり、また被害の大きな場所に挟まれた場所に被害の小さな地域が存在するなど、従来の被害の発生のしかたと異なった現象がありましたが、これは水槽の被害状況にも同様な結果として現れました。
例えば『水槽は新耐震設計基準』のものであったのにコンクリート基礎も壊れ、水槽も壊れていたが7〜8軒離れたビルの『水槽は新耐震設計基準以前』のものであるのにもかかわらず配管口にひび割れが生じた程度という事例もありました。
(2)水槽の被害事例
A.コンクリート基礎が駆体と連結されていないため転倒
B.基礎が壊れて平架台と水槽が移動
C.アンカーボルトが抜けて水槽が移動
D.アンカーボルトが抜けて水槽が移動し転倒

E.据付ボルトが抜け水槽が移動

F.地震の上下動で底板に取り付けられた出水口が抜けた

G.圧力上昇により天井板が破損(水槽内に水は確保されていた)
H.圧力上昇により天井板が抜け側板も破損した
I.マンホール蓋が抜け、内部梯子も破損した(水槽内に水は確保され貯水機能は保持されていた)

7.三菱樹脂からお客様へのご提案
(1)予防保全のため震災被災地域の水槽は良く点検をして下さい
『兵庫県南部地震』は給水槽へも大きな被害を与えています。
点検の結果は、先に述べていますが、大破もあれば一部分の破損があったり、無傷と判定したものもあるなど様々な現象を示していました。そして度々起こった大型の余震の影響があったと思われるケースとしては、点検数日後に修繕工事に入った時、点検時とは大きく異なりパネルの破損状況がひどくなっており、結局水槽を更新せざるをえなくなったものもありました。
今回の復旧では水槽の更新、部分的修理、ボルトの調整、あるいは無傷の判定で何も手を加えていないものなど修繕のレベルに差があります。
点検時に発見できなかった小さな傷が、時間と共に大きく成長したり、修繕後に何回も起こった大型の余震で小さな傷が大きく成長することは十分考えられますし、その結果として漏水を生じたり、ときとして破損し二次災害を引き起こすことも考えられます。
とくに「15年以上経過したもの」などは、水槽を構成する基材FRPの経年劣化で強度設計基準の下限近くになっていることも考えられ、先の調査で発見し得なかった小さな傷があったような場合は、傷の成長速度が早くなることが予測されます。したがって、水槽の点検も年一回ではなく、3ヶ月に一回程度と点検間隔を短くして予防保全を行って下さい。
(2)予防保全のため被災地域外の水槽も点検をして下さい
被災地では、たくさんの水槽を点検して参りましたし、管理者の方には日頃の管理ついてのお話を聞く機会もありました。
全国どの地域でもほぼ同じですが、定期清掃以外の水槽の点検は一部の管理者を除けばほとんど実施されていないか、あっても漏水の有無程度のチェックだけのようです。
今回の点検でも感じたことは
(A)通気管やマンホールの壊れた物が多くある
(B)梯子が腐食している物が多くある
(C)架台やアンカーボルトの腐食している物が多くある
(D)配管サポートがずれたり、とれている物がある
(E)特に新耐震設計採用以前の物では、フレキシブルジョイントが使われている物は少ない
など、地震などで大きな外力を受ければ被害のでやすい形になっているようです。
(3)新耐震設計基準制定施工以前の水槽は早期に更新されるようお薦めいたします。
新耐震設計基準が制定された昭和56年(1981年)以前に設置された水槽は、高置水槽でも構造は地震の負荷として0.2または0.3Gの水平加速度で設計、製造されていますし、とくに15年以上経過したものは、水槽を構成する部材FRPの経年劣化で設計基準の下限強度に近くなっています。またアンカーや架台そしてコンクリート基礎についても同様な考え方で設計、施工されています。したがって少し大型の地震でもあればいろいろの障害が発生しやすい状況になっています。
いざという時の障害を少しでも低減させるため新耐震基準品への更新をご提案いたします。
(4)水槽を更新する際には耐震グレードを考慮して下さい。
建物にはそれぞれに目的や機能があります。したがって設計の際にはその建物の重要度を考慮し水槽や架台および配管等をその重要度に応じた耐震グレードにする必要があります。
また病院などでは水を切らすことができないということはよく知られていますが、仮に給水管が破損しても水をストックできるように、水中ポンプにして配管取り出しを水槽の上部にしておくなどは工夫のひとつです。
なお、水槽を更新する場合は、架台を初め、配管はフレキシブルジョイントを組み込むなど地震の揺れに耐えるような配慮をしてください。
おわりに
兵庫県南部地震の爪痕の大きさは、本当にひどいとしか表現できないものでした。報道で見聞きするのと現地で目にする光景はまったく異なったものでした。
この震災では物的損害もさることながら、それ以上に多くの死傷者と被災者という人的被害は極めて甚大なものでありました。被災された方々へご冥福を祈り、一日も早く再起されることを祈り、そして一日も早い復興が実現して活気の満ちた明るい街並みが戻ってくることをお祈り申し上げます。
弊社も即日出動し一日も早い復旧のお役立ちをしたいと連日連夜被災地を飛び回りました。交通事情は極めて悪く大阪在住の施工班は神戸までの道程を5時間も6時間もかかってようやく目的地へ復旧の材料をとどけて作業を行い、完了後はまた5時間も6時間もかかって帰りそれから次の日の準備をするというように、朝は4時5時から夜は11時12時の毎日が続きました。各員それぞれが復旧のお役立ちをしたいという気持ちで頑張り、疲労のため少々の休みを取らざるを得ないことはありましたが、総員けがなどの事故もなく緊急の復旧作業を全うすることができました。
これも全てお客様のご理解とご支援の賜物と感謝いたします。
また復旧の作業を進めている最中に、お客様から水槽は部分的に破損していたにもかかわらず『貯水機能は生きていて』マンションにお住まいの方々の『生活用水の確保』に役だっていたというようなお話を聞くことも度々ございました。このようなお話は復旧にたずさわった者への大きな力づけになりました。給水槽が緊急時のお役に立っていたという事実はわたしたちにとって大きな喜びであり、それを糧に今後とも皆様へ安心してご利用いただけお役立ちができる給水槽を提供して参りたいと思います。
地震の後に、新聞紙上等で『危機管理に対して不十分』という批判が数多く飛び交っていましたが、ライフラインの重要な『水』の供給設備において被災復旧にあたった弊社も現地での情報収集や救援活動においては、交通、通信などの混乱による不便さもあって必ずしも問題がなかったとは言えない状況であり多々反省する点がございました。
この貴重な経験は必ず生かさなければならないと肝に銘じ、今後更に『緊急時の対応』が有効にかつ速やかにできるようなシステムを構築していきたいと考えています。